コクワガタ(Dorcus rectus)
・分布:北海道、本州、四国、九州の日本全土
野外で最も多く見掛ける事が出来るお馴染みの小型の種類です。
離島産や外国産の種類と区別する為に「国産コクワ」「本土コクワ」と呼ばれる事があります。
オスのアゴの真中の少し上付近に左右一対の内歯の突起が有るが小型個体になると目立たなくなります。
チョコチョコした動きと温厚な性格で初心者の方でも飼育が容易な事から人気が高いです。
※加えて寿命も長く、省スペースで飼育が可能なのでお手軽に楽しめます。
大きさは、オスで18から50ミリ前後、メスで15から30ミリ前後ですが飼育下では更に大きなサイズの羽化報告が存在します。
寿命は、一般的に3年前後と言われていますがエサや飼育環境(低温飼育)で4年以上の飼育報告も存在します。
長い寿命を持つ種類という事になります。
メスの画像です。
やや艶が無く、小振りでスマートな体型をしています。
特に上翅の点刻列(スジ)が細かく、ヤスリ状なのでツルツル感が全くないです。(ザラザラとした感じ)
前脚の腕が直線的なところが同時期に発生するヒラタのメスとの大きな違いです。
野外採集は、早ければ5月のゴールデンウィーク頃から可能です。
活動後に越冬可能で複数年の寿命を持つコクワガタは、初夏の早い時期から姿を現します。
5月に発生する個体は、前年に活動して更に越冬した旧成虫(越冬旧成虫)が殆どで消耗が激しい個体が多いです。
逆に6月の梅雨入り前後から姿を現す個体は、徐々に新生の物が多くなります。
新生個体と言っても晩夏から秋に羽化した個体は、蛹室(サナギの部屋・土繭)の中で越冬して翌年の樹液が出る季節(初夏から夏)に出てくる事があるので羽化後1年ほど経過している場合も多いです。
※したがって旧成虫(越冬旧成虫)と呼ばれる個体は、既に2年以上生きている事になります。
越冬個体と新生個体の区別は、体の摩耗や体色(ツヤ)の他に体やアゴ、脚の力の入り具合なで判断出来ますが少し熟練が必要です。
コクワガタは、前述の越冬後の初夏に発生するタイプ(一時発生型)と梅雨明け後の猛暑が続く時期に発生するタイプ(二次発生型)が存在します。
二次発生型は、初夏に羽化して羽化後2か月足らずで活動する早期活動の個体でメスや小型のオスが多いです。
(一般的に小型の方が早く羽化して活動も早い傾向があります。)
※虫吉では、お盆前後に採集したコンディションが良いメスを越冬させて翌年の春から初夏に産卵させる事が多いので季節的に産卵が厳しい場合や通年で飼育を楽しみたい方は、参考にしてみてください。
成虫は、主にクヌギ、コナラ、クリ、ニレ、ヤナギ、アカメガシワなどの広葉樹の樹液に集まり、5から10月頃迄活動します。
夜行性なので夕方から早朝に掛けて樹液が出ている木や樹皮の裂け目、樹洞(木の窪み)の隙間に隠れていたり、枝や幹を普通に歩いている事が多いです。
自然界では、小さな個体が多いので採集の際は、注意深く探す必要があります。
ホームセンターやドラッグストアでも売っている先端が固いピンセットがあると画像の様に幹や枝の隙間に隠れたコクワガタを採集するのに役立ちます。
※針金を使うと傷が入りやすいのでお勧めしません。
元々、里山の厳しい自然の中に棲んでいる昆虫なので、真夏の30℃を超える高温さえ注意すれば真冬は寒くても問題ありません。
因みに0から30℃の範囲内での飼育がベストで、真夏は冷房が効いた25℃前後の環境で飼育を行った方が体力の消耗を抑える事が出来ます。
また真冬は、暖房の影響が全く無い状態の0から10℃で完全に冬眠させた方が同様に体力の消耗を抑える事が出来て寿命や産卵面でメリットがあります。
コクワガタなどのDorcus(ドルクス)属と呼ばれる種類は、5月の肌寒い時期から活動を開始するので雨風の影響を受けない飼育下では15℃前後でも普通に活動をする事があります。
冬眠中でも秋(冬)から翌年の春先に掛けての温かい日のエサ切れに注意が必要です。
※特に飼育ケース内は、雨風の影響を受けないので外気温よりも若干、温度が高くなりますのでエサ切れには注意が必要です。
マット交換のタイミングは、春から秋は食べこぼしや排泄物(尿)で水っぽくなった時と越冬前の12月頃、越冬開けの3月頃に行うと良いです。
◆オススメ飼育用品
・Beケース(ミニ) ・コバエ防止ケース(中) ・プチ止まり木(4本入り) ・止まり木(2本セット) ・成虫マット ・ココパウダーマット(冬眠越冬用) ・ブラウン黒糖ゼリー ・イエロー果汁ゼリー ・プチエサ皿・クヌギの落ち葉 ・樹皮 など。
産卵は、自然界でコクワガタが活動している5月中旬から9月に行うと効率が良いです。
その年の気候や地域にもよりますが8月のお盆くらいまでが確実です。
※20℃を下回ると休眠に入ってしまう個体もいるので出来れば25から28℃前後の環境での飼育をお勧めします。
飼育繁殖品の場合は、羽化して一度越冬したペアだと梅雨入り前後から産卵可能です。
但し、越冬経験が無いペアの場合は、梅雨明けの気温が上がる時期直後からの産卵の方が最適です。
天然採集品の場合は、自然下で交配済み(交尾済み)の確率が高く、オスを一緒に入れなくても産卵する確率が高いです。
産卵方法は、実にシンプルで成虫用マットに加水して水切り作業を行ったクヌギ産卵木Sを入れるだけです。
※基本的に飼育の際に加水した朽ち木を入れておくだけで産卵するので成虫飼育の延長線上で問題無いレベルです。
エサには、余分な化合物が添加させていない国産昆虫ゼリーを終始与えた方が長く生きて産卵効率がアップする傾向があります。
※防腐剤や着色料が多い海外からの輸入品は、合成添加物が小さな昆虫の体内に蓄積されて余り良く無いと言われています。
◆オススメ産卵用品
・飼育用品セット ・コバエ防止飼育ケース(中) ・産卵木SまたはMサイズ ・成虫マット ・国産プレミアム昆虫ゼリー ・専用エサ皿 ・クヌギの落ち葉 ・樹皮 など
幼虫は、菌糸ビン飼育、マット飼育のどちらでも大きく育てる事が出来ます。
但し、菌糸ビンの最大のメリットの一つでもある『成長速度』の事を考えると最初の1本目だけクヌギ菌糸ビン550ccを与えた方がスムーズに羽化まで漕ぎ着けます。
元々、自然界に普通に生息している昆虫なので真冬の寒さには強く、低温下での飼育に全く問題はありません。
※早く羽化させたい時を除き加温の必要はありません。
逆に真夏の暑さに弱いので30度を超えない環境(出来れば25℃前後)での飼育をお勧めします。
- 1本目(初齢、二齢):菌糸ビン500ccもしくは、オオクワマットを幼虫飼育ボトル500ccに固く詰めた物。
※菌糸ビン飼育の際は、食痕(茶色い部分)が余り見えない事が有りますが3ヶ月で交換してください。
- 2本目以降(終齢):オオクワマットを500ccボトルに固く詰めた物
(マットは、概ね3から4ヶ月毎に新鮮な物と交換します。)
※コクワガタは、小型な分だけ成熟が早く、終齢で菌糸ビンに入れると暴れ(掻き混ぜ)を起こして逆に縮んでしまうのでマット飼育でストレスを与えない飼育の方が適しています。
暴れ始めた時は、2週間ほど様子を見て蛹室(蛹の部屋)を作らない場合のみマット飼育へ切り替えてください。
▶50ミリの羽化の記事>>>
◆オススメ幼虫飼育用品
・クヌギ菌糸ビン500cc ・ブナ菌糸ビン500cc ・オオクワマット ・幼虫飼育ボトル500 ・幼虫飼育ボトル800cc ・木製プレスなど
◆コクワガタの幼虫飼育方法>>>
すげー参考になった
情報をお役に立てて頂きありがとうございます。
クワガタのシーズンにつき、頑張って面白い情報をお伝えできればと思っております。
今後とも宜しくお願い致します。
コクワガタのメスを、昨年11月に保護し、家で越冬させてあげて暖かくなったら逃がしてあげようと思いつつ、もう6月になってしまった者ですが、というのも、
逃がすのに最適な時期が判らないからだったんですが、
樹液の出る時期(夏)がいいのか、今でもいいのか、どうしたらいいですかね?
今の梅雨時期はエサがなさそうで、しかも溺れたり?寒がりそうで、過保護な私は困ってます。
オカメインコ様
コメントありがとうございます。
コクワガタに限らず野生の生き物を持ち帰ってしまうと野生生物から飼育生物に変わってしまいます。
一旦、人の手によって保護された飼育生物を元の野生に戻すという行為は逆に生き物にとって不幸になってしまう場合もあります。
例えば、今回のコクワガタの場合だと秋の終わりに越冬の場所を探していた所を捕獲されたと思いますが人間の生活温度で飼育してしまうと体力の消耗が進んで老化の様な現象が発生してしまいます。
この様な状態で自然に戻したとしても上手く住処を見つける事が出来ずに天敵の野生の鳥獣たちのエサになって生涯を終える可能性が高いと思います。
一般論になりますが自然で野生動物を見かけても最初から持ち帰らないという選択肢もあります。
そして持ち帰った場合は、最後まで責任を持って飼育する事が筋かと思いますが、一方でどんな形でも自然界で最後を迎えさせた方が良いという意見も存在します。
※最近は、色々な地域から昆虫がペットとして流通しており、飼育者の不注意で脱走してしまうなどの問題も多いです。
種の多様性や地域間の遺伝子の違いなどの問題もありますので街中で保護された昆虫は、元に戻さない方が良いという意見が存在するのも事実です。
色々な情報をお伝えしましたが最終的なご判断は、オカメインコ様の方で決めていただくと良いかもしれません。
宜しくお願い致します。
ご返答ありがとうございます!
保護したコクワガタは、越冬の準備をしていた状態ではなく、うちは団地なのですが、玄関付近の階段で、動きが鈍くなって蜘蛛の巣に掛かりそうになってた個体でした。
うちの近所は自然の木々が多く、玉虫(今時珍しいと思います笑)が舞っていたりクワガタ類もわりといるような環境です。
保護すると野生本能が退化してしまうというお話は意外でした…
しかし、5月頃に起き始めてからは、狭い虫かごの壁を外を見つめて這う姿は、「この狭いプラスチックはなんだ?!、早く出たいのだ!」と叫んでいるようで、悩みます。
オカメインコ様
お返事ありがとうございます。
私は、夏休みの子供達のカブトムシの見学会で持ち帰ったカブトムシやクワガタは、最後まで責任を持って飼育する様に言い聞かせている人間です。
また、ご購入頂いたお客様にも同様に最後まで責任を持って飼育する様にお伝えしています。
※当店をご利用の何名かのお客様の中にもクワガタやカナブン、カタツムリを保護して飼育に工夫しながら最後まで面倒を見ておられる方がいます。
それが命の勉強だけでなく飼育のマナー(ルール)だからです。※理由は最初のお返事でお伝えしていますので省略します。
野外に放ち、途中で投げ出す事は、言い方を変えると飼育放棄という無責任な行動になってしまいます。
一点だけお伝えしたい事がございます。
客観的に考えるとコクワガタを発見した際に【もう一つの選択肢】が残されていた事をお気付きでしょうか?
★答えは、家に持ち帰るのではなく、安全な場所(近くの森など)へ少しだけ移動させるという選択肢です。
保護という名目で飼育という選択肢を選んだ時点で最後まで飼育する責任が発生してしまいます。
※飼育ケースが自然の様に広く無い事は、子供から大人まで誰もが最初から知っている事なので発見時に持ち帰るべきでは無かったと思います。
話は変わりますが、もう一方の虫吉のブログ(虫吉日記)で少し前に巣から落ちたスズメの雛を元の巣に戻した事を紹介しています。
(先日、無事に巣立ってくれた様です。)
実は、若い頃に同様に巣から落ちたスズメの雛に対して持ち帰って育てるという選択肢を選んでしまった事があります。
私もオカメインコ様と同様に後から外に逃せば良いと思っておりました。(後になって完全に人間のエゴだったと反省しています。)
ところが本当の親鳥を見ずに育った小鳥は、警戒心もなく飛び方も下手でエサを取る事も知らないので最後まで責任を持って飼育する事にしました。
小鳥は、一生を狭い鳥籠で過ごす事になりましたが一方でエサに困る事がなく、天敵や天候の心配もなく自然界での寿命よりも遥かに長く生きてくれました。
ある意味では幸せだったかもしれません。
もしも当時、今回と同様に巣に戻すという選択肢を選んでいれば全く異なる運命の元で生きていた事は100%確かな事です。
人間の行動によって自然の生き物は運命を左右されてしまいますので「責任ある行動と選択肢」という事をその時のスズメに勉強させて頂きました。
生き物は、飼育も含め必ず私たちに何かの形で学びの場を与えてくれます。
皆様にとって昆虫や生き物が素晴らしい存在で有り続けて欲しいと願っております。
コクワガタの話の戻りますが飼育の選択をされたからには、ケースを広くしてあげたり元の自然を再現するために沢山の上り木や落ち葉を入れてあげたりする事も大切かもしれません。
長文コメントで長々と失礼いたしました。
私の乏しい表現力では誤解があるかもしれませんが宜しくお願い致します。