ドングリから『昆虫が集まる森作り』の紹介
このコーナでは、虫吉が実際に放置竹林を開墾して作った昆虫が集まるドングリの森の様子を紹介しています。
※放置竹林とは、過疎化によって出来た休耕地が温暖化の影響で急速に竹林に変わってしまう森林環境問題の一つです。
●かつての里山の雑木林が放置竹林に飲み込まれた姿を紹介したページです>>
因に現在の里山のタケの殆どが外来種の可能性が高いという事が近年の研究で判り始めています。
私たちが雑木の森作りの重要性を訴えている理由は、亡くなった祖母が生前に話してくれた「戦争で山が変わってしまった」という一言からです。
当時、資源や食糧が少ない日本では、耕作地の確保、薪などの燃料、軍による大規模な伐採で故郷の山が見事なまでに丸裸になったそうです。
戦後の木が無くなった山林へのスギやヒノキの植林政策によって発生した放置林。
高度経済成長や高齢化による山離れで発生した耕作放棄地の竹林化。
原生林伐採後の「針葉樹」「竹」、「雑木」の3者のバランスが崩れ始めている事を大正生まれで戦争を知る祖母が伝えたかったのかもしれません。
放置されて間伐がされない杉は、樹齢60から70年を迎え高さが数十メートルに達しています。
竹は、近年の温暖化の影響で1年で30メートル前後の高さに猛スピードで育ってしまいます。
竹や杉に囲まれて日照不足に陥った原生林や雑木林は、新しい木を残せずに一生を終えてしまいます。
代わりに出来た空きのスペースに竹が入り込んでしまい昆虫が繁殖できる広い森がジリジリと減少してしまいます。
また、荒れてしまい人の気配が無い薄暗い山では、野生動物が過剰に繁殖しやすくなります。
ところが杉林や竹林には、彼らの食糧がありませんしエサの植物も育ちません。
増え過ぎた野生動物の餌は、面積が少ない雑木林の植物や木の実だけでは足りません。
イノシシなどの大型動物は、次第に土や朽ち木内の昆虫食へとシフトして行きます。
昆虫は、自然という受け皿がなければ種や数を維持する事ができません。
クワガタなどの朽ち木性の昆虫が居なくなった世界を想像してみる事も大切かもしれません。
一生を終えた木を分解するのが未知の微生物や細菌のみになってしまう事を・・・
こういった思いで竹林化した祖母の段々畑だった場所を開墾して作った森の最近の様子と実際の森作りを紹介します。
まず、最初に最新の森の様子を紹介します。
◆2023年の森に集まった昆虫の様子
写真は、私たちが育てた17年目の森のクヌギで見かけたカブトムシです。(23年8月4日撮影)
少ない樹液に小振りな複数の個体が集まっています。
森の草むらで鳴いているマツムシです。(2023年9月3日撮影)
秋になると他にもクツワムシやトゲナナフシなど様々な昆虫を見かける事ができました。
2024年は、どんな昆虫たちが集まってくれるか今から楽しみです。
《森作りのあらすじ》
今では、クヌギやナラの木で一杯の森も十数年前に遡ると人が通り抜ける事も出来ないくらいの荒れ果てた放置竹林でした。
この荒れ果てた放置竹林を昆虫が集まる緑の森に戻したいという一つの想いだけで2年以上の月日を掛けて開墾しました。
竹伐(竹の伐採)で指の形が変わってしまうほど大量の竹が生えていました。
竹は切っても根が残っていると直ぐに再生してしまうので重機やツルハシを用いて根を掘り起し、莫大な時間を費やしました。
この様に虫吉では、昆虫や野生動物の住処となる雑木林を再生させる為、苗木作り、そして植樹にチャレンジしています。
自然を人の手で再生させる事は、数十年単位の膨大な時間が掛かり、草刈りや間伐など森の維持・管理や手入れの作業も膨大で大変ですが可能だと考えています。
《ドングリから苗作り~森に育つまでの紹介》
自然に興味が有ったり、地域や子供達と森づくりにチャレンジしてみたい方達の為に当店が実際に行なっている森作りの様子を紹介して行きたいと思います。
画像は、落下したクヌギのドングリです。
先ず、秋に集める事から始まります。
拡大した写真です。丸くて少し大きいのがクヌギの特徴です。
秋のうちに集めておかないと野生動物のエサになってなくなってしまいます。
※野生動物たちの食料の為、必要な分だけ持って帰って、必ず自然に残しておく様にしましょう。
水に浸けて浮かぶ物は、中に虫(通称:クリ虫)が入っていて発芽しないので捨ててください。
残しておくと他のドングリに移って食べられてしまいます。
※長期間保存して乾燥した物も水に浮かぶ事がありますが発芽率が少し落ちる傾向があります。
ヒビがある物は中身の種子が膨らんで出来ただけなので発芽します。(水に沈みます)
約2~3時間ほど水に浸けてから日陰で半日ほど水を切ります。
日陰で水切りをします。(これも2~3時間程度で大丈夫です)
水切りは、カゴやザルを使うと簡単です。
写真は、園芸店やホームセンターで販売されている「腐葉土」と「赤玉土(小粒)」です。
※当店では一般の腐葉土の代わりに、幼虫が作った天然堆肥(ビートルコンポスト)を使っていますが、ここでは入手しやすい市販の物を使って説明します。
赤玉土8に対して腐葉土2の分量を混ぜます。
※腐葉土が多過ぎると水はけが悪くなり発芽後に根が腐りやすくなります。
ここでは、苗木を作る事が目的ですので水はけを良くして根の成長を促す事に重点を置きます。
苗づくりの培養土が完成しました。
混ぜ終わると、こんな感じになります。
写真は解り難いですが、18から20センチの大きさの苗用のポットに上記の培養土を入れますが、ポットの底の穴はネットでは無く石で構わないので土が溢れない様に軽く塞いでください。
※鉢底ネットを使うとネットの網目から根っこが飛び出して根が傷んでしまいます。
土はポットの7から8分目まで入れてください。
写真の様にドングリを置きていきます。
必ず横向きにしてください。
※理由は、横面から真下に向かって根が出て来るからです。
上から土を掛けて埋めます。掛ける土の深さは2センチ前後にしてください。
※埋め込み過ぎると芽が出なくなりますので注意が必要です。
最後に水をたっぷり掛けて発芽を待ちます。
但し、毎日水を与えると腐ってしまうので注意してください。
植え付けて直ぐの冬~春の日照時間が短い時期は外で雨ざらしでも大丈夫です。
時々、観察して乾いていたら水を与える程度で構いません。
※但し発芽後の初夏~秋は1日置きに様子を見て水やりをしないと枯れてしまいます。
乾燥防止策でポットの土の上にピートモスを少しだけ敷くのも良いと思います。
植える時期は寒くなって害虫が付きにくい11月~翌3月上旬迄です。
上手く行くと4~5月頃に新芽が出ます。
※土の表面に乾燥防止の敷き材(竹チップやピートモス)を入れています。
5月になって梅雨が近付くにつれてドンドン発芽して成長して行きます。
発芽して約1ヶ月後の5月下旬のクヌギの苗です。
梅雨開け間近の7月になると立派な苗木になってきます。(写真左はコナラ、右はクヌギです。)
秋以降、寒くなると葉が枯れて落ちてしまいますが、クヌギやコナラ等の木は落葉樹といって寒くなると葉が落ちる種類の木なので心配は要りません。
そして、葉が落ちている状態のこのタイミングが植え付け(地植え)の時期になります。
写真では、解り難いのですが中央が植樹が終った苗木です。
年が明けて1月~3月の寒い時期に植樹をします。(気温が上がると根が弱りやすいです)
植え方は、ポットと同じ大きさの穴をスコップで掘って、ポットから出した苗木を培養土ごと穴に入れて埋め込むだけで簡単です。
※深く埋め込み過ぎると成長出来ずに根が腐ってしまいます。
最後は周囲を足で固めるだけです。
しっかりと周囲を固めておかないと地中で根と土の間に空間が空くと枯れてしまいます。
夏になると再び葉が茂って育ち始めます。
そして数年後には・・・
写真は植樹して2年後の木です。
大きくなり森への第一歩の始まりです。
写真は2011年7月時点で5年目の森の様子です。
あと数年で昆虫がやってきそうな予感がします。
写真は2012年5月23日時点で6年目の森の草刈り作業の様子です。
背が高くなり立派な気になりつつ有ります。
写真は2013年9月16日時点で7年目の森の様子です。
夏になると真ん中の木の低い位置から樹液が出て沢山の小さな虫たちが集まっていました。
秋が近付くと青いドングリを実らせている木も有りました。
2013年は、写真で納める事が出来ませんでしたが1本のコナラにシロスジカミキリが産卵にやって来て8月頃から樹液が出始めてカナブンやミヤマクワガタが集まっているのを確認出来ました。
写真は2014年5月8日時点で8年目の森の様子です。
新緑の季節を迎え一気に幹や枝が育ち綺麗な緑の葉っぱを付け始めています。
2014年5月25日に樹洞から出ている樹液でヒラタクワガタを見掛けました
同じく2014年5月25日に別の木でコクワガタが集まっていました。
8月になると木を揺するとミヤマクワガタが上から落ちて来るなど森が育っている事を実感できました。
写真は2015年8月2日時点で9年目の森の様子です。
一年で最も緑が濃くなる夏の季節なので青々とした葉っぱを茂らせていました。
昨年より、木を揺するとミヤマクワガタが落ち始めていましたが今年は更に沢山の数を見掛ける事が出来ました。
8月2日に実際に木を揺すってみると落ちて来ました。
※画像は、小さめのオスですが7月には、最大で71ミリの大型のオスを採集できました。
来年が益々楽しみです。
写真は2016年8月10日時点で10年目の森の様子です。
幹回りも太くなり立派な木に成長しました。
枝も太くなり、年々クワガタが集まって来る様になりました。
※森へ採集に出かける事が店長の日課になっていました
昨年に引き続き、今年もお盆前に採集について行きました。
福岡県福津市は、お盆前から35度を超える猛暑日が何日も続きましたが木を揺すると暑さに負ける事無く沢山のミヤマクワガタが降って(落ちて)来ました。
写真は2017年6月1日時点で11年目の森の様子です。
木が高く伸び枝も大きく育っています。
新緑の季節を迎え綺麗な緑の葉っぱを茂らせています。
今年は、梅雨明け後に度々、カブトのメスを見掛ける事が出来ました。
数年前に植えた木も順調に大きく育っています。
あと何年か経つと樹液を出せるサイズまで育つと思います。
今年の2月にも新たな苗を何本か植え足したので今後の成長が楽しみです。
写真は2018年4月28日の私たちが育てた森の12年目の様子です。
新緑の季節を迎え透き通る様な綺麗な黄緑色の葉っぱが印象的でした。
今年は、7月に大きなカブトムシのオスを見掛ける事が出来ました。
2018年7月20日に樹液が出ている細いクヌギで見かけた大きなオスです。
今年は、7月中旬から下旬に掛けて大量の樹液が出ており沢山の個体を見かける事が出来ました。
今年は、猛暑の影響で数が少なかったですが深夜の森でミヤマクワガタのペアを見かける事ができました。
例年だと午前中に木を揺すると落ちてくるのですが今年は夜に見かける事が多かったです。
写真は2019年7月10日に私たちが育てた13年目の森に集まったシロスジカミキリという昆虫です。
この昆虫が産卵の為に幹や枝を削った痕からクワガタやカブトムシのエサとなる樹液が出ます。
健全な生態系が保たれ始めている事が分かります。
2019年7月16日には、カミキリムシが削った別の木の樹液を吸っているカブトムシのオスを見かけました。
写真に収める事が出来ませんでしたが、初夏から秋に沢山の昆虫の姿を見かける事が出来ました。
写真は、私たちが育てた14年目の森に集まった2匹のカブトムシのオスです。(2020年7月22日撮影)
クヌギの高い幹から出ている樹液を争っています。
梅雨明けが遅かった影響で7月は、数が少なかったですが8月になると徐々に個体数が増え始めました。
樹液に集まったミヤマクワガタとコクワガタの写真です。(2020年8月1日撮影)
この年は、8月から9月に掛けて深夜に何度も見かける事が出来ましたが、やや小振りなオスばかりでした。
写真は、私たちが育てた15年目の森に集まった大きなコクワガタのペアです。(2021年7月20日撮影)
コナラから出ている樹液に集まっています。
九州北部は、あまり雨が降らなかったので全体的に樹液が出ている木が少なかったです。
コナラの枝から出る樹液に集まった2匹のミヤマクワガタのオスです。(2021年7月27日撮影)
今年は、2週間ほど発生が早かったので7月中旬から20日頃にピークを迎えました。
クヌギの枝から出る樹液に集まったヒラタクワガタとコメツキムシなど昆虫たちの様子です。(2021年7月27日撮影)
※狭いエサ場に4種類が集まっています。
写真は、私たちが育てた16年目の森のコナラの木で見かけた小型のミヤマクワガタのオスです。(22年8月4日撮影)
少し下の樹液に近づいている最中だと思われます。
深夜に見かけた地面を歩く大型のミヤマクワガタのオスです。(2022年8月4日撮影)
樹液が出ている木を目指して歩いていると思われます。
クヌギの高い場所から出ている樹液を吸う大きなカブトムシのオスです。(2022年8月7日撮影)
この様に蔓(つる)が巻き付いている木は、天敵から見つかりにくいので最高の餌場になります。
紹介している森も今年(2023年)で17年が経過しました。
ここでは紹介出来ませんでしたが沢山の昆虫達が集まって徐々に本来の生態系が作られ始めたのを年々感じる事が出来ます。
2024年は、どんな生き物が集まって来るのか今からワクワクしています。
実際に森づくりを行なってみて気付いた事は、木が育つにつれて周囲に色々な植物が生え、色々な生物が集まってくる事です。
特に初夏~夏は虫たちの楽園になります。
T.Ozawa
H.Ozawa