本土ヒラタクワガタの飼育方法と解説

本土ヒラタ

ヒラタクワガタ(Dorcus titanus)

・分布:本州(北限は東北南部)、四国、九州

※九州や沖縄には、離島産の亜種が数多く存在している事で知られています。

それらと区別するために「本土ヒラタ」「国産ヒラタ」と呼ばれる事があります。

黒くて平べったい姿が特徴の人気の種類です。

※平たい体型が名前の由来です。

その体の特徴を利用して樹洞や木の裂け目などの狭い隙間に器用に入り込むのが得意で、そこを縄張りとして住み着く事が多いです。

繁殖期を迎えたメスが縄張りを勝ち取ったオスに接近する習性があり、一時的に一夫多妻制になる事も多いです。

怪力の持ち主で力強いアゴは、一度挟むとなかなか離さない程で少し荒々しい一面もあります。

越冬して複数年の寿命を持つ事で知られています。

大きさは、オスで39から75ミリ前後、メスで19から42ミリ前後ですが飼育下では更に大きなサイズの羽化報告が存在します。

寿命は、一般的に3年前後と言われていますがエサや飼育環境(低温飼育)で4年以上の飼育報告も存在します。

学名に「Dorcus(ドルクス)属」が付く種類は、長い寿命を持ち長期飼育に最適で人気も高いです。

本土ヒラタのメス

本土ヒラタクワガタのメスの画像です。

翅(はね)の点刻列(スジ)が目立たず全体的に光沢が強いです。

※但し、数年生きた個体は老化で艶が無くなります。

別の見分け方として前脚の腕の部分が前方(爪の方)に向かうほど太くなっていて少し湾曲しているところです。

ヒラタクワガタのメスの解説>>

大型のペア

上記樹洞の中で樹液を吸う野生の本土ヒラタクワガタの画像です。

野外での採集は、早ければ5月中旬頃(気温が高いと上旬頃)から可能です。

梅雨に入って気温と湿度が上がって来ると徐々に個体数が増えていきます。

5月に発生する個体は、前年に活動して更に越冬した旧成虫が殆どで消耗が激しい個体が多いです。

※高齢の個体は、体の艶が無くなっていたりアゴや爪の欠損が有る物も多いです。

※また、体重や重量感も無くなります。

6月の梅雨入りから7月中旬くらいまでに姿を現す個体は、新生の物が多くなります。

新生個体と言っても羽化後に蛹室(サナギの部屋・土繭)の中で越冬して翌年の樹液が出る季節(初夏から夏)に出てくるので羽化後1年ほど経過している事になります。

したがって旧成虫(越冬旧成虫)と呼ばれる個体は、既に2年以上生きている事になります。

成虫は、クヌギ、コナラ、クリ、ヤナギ、アカメガシワ、シイなどの主に広葉樹の樹液に集まります。

夜行性なので日中は、木の根もと付近の土の中や深い樹洞、樹皮や幹の裂け目に隠れて、日没頃から翌日の明け方に掛けて活動します。

梅雨の雨上がりや曇りで薄暗い時は、日中から活動する姿を見掛ける事も多いです。

樹洞を争うオス

画像の様にオスは、縄張り意識が強くエサの樹液が大量に出て、しかも外敵から完全に身を守る事が出来る良質の樹洞を巡り、争奪戦(陣取り合戦)が繰り広げられます。

メスは、オスが住み着く樹洞に集まり時には一夫多妻制の大所帯になる事も有ります。

※大きな樹洞には1匹のオスに対して3から7匹のメスが集まる事もあります。

フェロモンの様な物を出している可能性が高く、「強いオス=繁殖力(欲)が強く大量のフェロモンを出す」様にも思えます。

従って縄張り争いに勝利した強いオスの遺伝子が数匹のメスによって効率良く後世に残される事になるメカニズムが有るかもしれません。

ギザ無しヒラタ

通常、本土ヒラタの大型のオスは、アゴの付け根付近の大きな内歯(突起)の上に細かい複数のギザギザの鋸歯(内歯の小突起)が見られ、小型個体になるにつれて目立たなくなります。

画像の様に大型個体でも小突起(鋸歯)が完全に消失してしまう個体も稀に見掛ける事が出来ます。

通称、【ギザ無し】と呼んでいます。

遺伝なのか一定の確率で発生するのかの解明はなされていませんが飼育下だけではなく、自然下でも見掛ける事が出来ます。

ギザ無し型の採集記事>>>

ギザ無し型の羽化記事>>>

成虫飼育例

前述のとおり、オスは、力が強く縄張り意識が強いので飼育下ではオスがメスを挟んで殺してしまう事故が発生しやすいです。

繁殖の際の交配(ペアリング)時以外は、オスとメスを別々に飼育される事をお勧めします。

成虫飼育温度に関しては元々、里山の厳しい自然の中に棲んでいる昆虫なので、真夏の30℃を超える高温さえ注意すれば真冬は寒くても問題ありません。

0から30℃の範囲内での飼育がベストで、真夏は冷房が効いた23から25℃前後の環境で飼育を行った方が無駄な動きを避けて体力の消耗を抑えられます。

【推奨飼育温度は5から28℃】

また冬は、暖房の影響が全く無い状態の0から10℃で完全に冬眠させた方が同様に体力の消耗を抑える事が出来て寿命や産卵面でメリットがあります。

※雨風の影響を受けない飼育容器内では15℃前後でも普通に活動をする事があります。

秋から春のエサ切れに注意が必要です。

沢山食べるので常にエサを入れておいて、食べ残しは3から4日に1回の交換を行うといった徹底した管理の方がコンディションを保てるのでお勧めです。

※冬場のエサの食べ残しは、1週間に1回の交換で大丈夫です。

マット交換のタイミングは、春から秋は食べこぼしや排泄物(尿)で水っぽくなった時と越冬前の12月頃、越冬開けの3月頃に行うと良いです。

◆オススメ飼育用品

・コバエ防止ケース ・成虫用マット ・ココパウダーマット ・国産プレミアムゼリー ・止まり木(2本セットなど) ・エサ皿(16グラム用) ・クヌギの落ち葉 ・広葉樹の樹皮、他。

産卵セット

産卵は、自然界の本土ヒラタが活動する5月中旬から9月上旬迄に行うと効率が良いです。

※但し、秋以降は、産卵効率が落ちやすいので8月までに産卵セットを組んだ方が良いです。

20℃を下回ると休眠に入ってしまう個体もいるので出来れば産卵には23から28℃前後の環境での飼育をお勧めします。

なお、気温が高すぎると容器内のマットの温度が上昇しすぎて卵が死滅してしまう恐れがあるので注意が必要です。

新成虫の場合は、羽化して4カ月以上経過したペアが最適です。

晩夏から秋に羽化した個体は、冬眠させてからの翌年の産卵をお勧めします。

天然採集品の場合は、自然下で交尾済みの確率が高く、メス単独で産卵する確率が高いです。

天然個体は、オスに挟まれない様に最初はメスのみを産卵セットに入れる事をお勧めします。

繁殖品など交配が必要な場合は、予めBeケース(ミニ)などでオスとメスを3日ほど一緒に入れてペアリングをさせると良い。

オスのアゴを縛って同居

メスの挟まれ事故を防ぐため、オスのアゴを園芸用のグリーン帯で縛って交配させるという方法もあります。

加水して十分に水切りを行った朽ち木を産卵用の発酵マットで埋め込む方法で大丈夫です。

メスは、潜ったまま出てこなくなる事が多いですが問題はありません。

◆オススメ産卵用品

・コバエ防止ケース(中) ・産卵専用マット ・クヌギ材(Mサイズ) ・プレミアム国産昆虫ゼリー ・エサ皿 ・木製プレスなど。

詳しい繁殖方法を紹介した記事>>>

産卵セットの割り出し

上手く行くと1ヶ月前後で飼育容器の側面や底に幼虫や卵が見え始めます。

産卵の形跡が無い時だけ、オスを投入して3日ほど同居させると良いです。

割り出しは、画像の様に二齢(丸まって1円玉前後のサイズ)が見え始めてから行うと良いです。

割り出した幼虫は、一時管理用のカップに無添加幼虫マットを入れて4から7ほど異常の有無を見極めるために養生させます。

二齢以上の物から菌糸ビンもしくは、マットボトルに入れると良いです。

★その際に下記画像の様な幼虫は、死亡率が高いので注意が必要です。

異常がある幼虫

画像は、食環境の悪化(特に産卵セット内での飼育の長期化)で真菌によって腸内のバクテリアに異常をきたしたり、消化器官が壊死して摂食障害の様な症状を起こした幼虫です。

(通称:ブヨブヨ病と呼ばれます。)

割り出し迄に数ヶ月の時間が掛かってしまった際に産卵マットが劣化した際に発生しやすく割り出し時点から発症している事が多いです。

特徴は、体が透き通って少しブヨブヨとした感じになっている事です。

幼虫は、冬眠時に腸内に不凍液の様な物が入った状態になり下半身が半透明になります。

ブヨブヨ病は冬眠時の幼虫と真逆で腸内は有機物で満たされている事が多く上半身のみが透き通っている場合(左側の幼虫)が有るので見極めが少し難しい場合があります。

また、脱皮直後は、透き通っているので判断が厳しい時は、カップに戻して数日だけ様子をみると良いです。

どんなエサに変えても回復が難しくカップの中で生涯を終えてしまう場合も多いです。

ボトルに入れ替えても成長しないか消滅してしまっている事が多いです。

幼虫


幼虫飼育に関しては菌糸ビン、マットボトルのどちらでも結果が得られるのでお好みの方法でも構いません。

◆エサ交換のタイミングは、下記のとおりです。

マットボトル850ccに入れた幼虫

・マットボトル飼育の場合:3から4ヶ月毎の交換。

終齢のオスは、大きいので食べる速度が早いので3ヶ月に1回の方が確実です。

※常温(真冬の無加温飼育)の場合、5から8月は、蛹化の季節になるので4月から5月上旬までに交換を終わらせて夏場のエサ交換を避けると良いです。

マットボトルについて

無添加なので発酵ガスや発酵熱が発生しないので安心です♪

劣化が遅いので交換頻度を3から4ヶ月に1回まで減らせるメリットがあります。

菌糸ビンに入れた終齢

・菌糸ビン飼育の場合:2から3ヶ月毎の交換。

特に1本目の550ccは、サイズや気温により食べる速度が変化してしまうので早く食い尽くしてしまう事があります。

また、食べている量に関わらず中身のオガクズをキノコの菌が分解し続けて劣化してしまうので必ず2から3ヶ月以内の交換の必要があります。

◆菌糸ビンの交換リレーの一例

5月から8月は、サナギへの準備期間につき交換を慎重に行う必要があります。

◆切り替え飼育(虫吉式飼育方法)について

・菌糸ビン飼育だと成長(加齢)速度が上がりスムーズに大きくなる反面で終齢後期(成熟期/黄色みを帯び始める頃)になると突然、『暴れ』と呼ばれる掻き混ぜ行動を起こし始めて縮んでしまう事が多いです。

またエサの劣化速度が速いので早めの交換の必要があります。

・一方、マット飼育だとエサの劣化を気にせずに飼育出来て羽化率も高いが若干成長速度が遅く、食痕(幼虫が食べた痕)が外見から見えない為、ついついエサ交換を長期間怠ってしまい糞食によるサイズのロスが出てしまいます。

そこでヒラタクワガタには、双方の「いいとこ取り飼育」、つまり【菌糸ビン→マットへの切り替え】がオススメです。

「若齢幼虫(初二齢)の時期と終齢の時期とでは、必要とする栄養素も異なるのでは?」という点に着目した飼育方法です。

具体的な交換リレーの一例として、1本目:ブナ菌糸ビン500cc→2本目:ブナ〃〃800cc(1)→3本目以降:マットボトル800cc

1について、2本目への交換時にメスおよび黄色味を帯びて成熟したオスの終齢だった場合、2本目から切り替えて大丈夫です。

幼虫の成長速度や大きさは、温度で大きく左右されるので状況を見ながら交換を行い、暴れて2週間以内に蛹室を作らなかったら即エサの切り替えの準備を整えておくと良いです。

◆オススメ幼虫飼育用品

・ブナ菌糸ビン ・ブナ菌床ブロック ・マットボトル800cc ・無添加プレミアム虫吉マット ・遮光クリアボトルなど。

マット飼育へ切り替えた幼虫

実際の切り替え飼育時の終齢幼虫の画像です。

※当店では、1本目:菌糸ビン500cc⇒2本目以降:マットボトル800ccで70ミリオーバーを何度も羽化させています。

70ミリオーバーの羽化の記事>>>

▶︎ヒラタクワガタの幼虫飼育方法>>>

本土ヒラタクワガタの飼育方法と解説” への3件のコメント

  1. コメントありがとうございます。

    ヒラタクワガタは、個性的で面白いクワガタなので昔から大好きな種類です。

    今後も新しい情報がございましたら随時更新して行きますので宜しくお願い致します。

  2. 550菌糸→800無添加マットは試すつもりだったので、今日初めてブログ見させて頂きましたけど参考にさせて頂きます😃

    • 竜様

      コメントありがとうございます。
      幼虫は、エサ交換の掘り出し時のストレスで縮んでしまう事が多いので交換回数を減らす飼育方法の一つとして機会がございましたら是非お試しください。
      宜しくお願い致します。

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