幼虫飼育の考えと取り組み
菌糸ビン飼育の特徴
クワガタの幼虫の菌糸ビンによる飼育のメリットは、早く大きく成長することです。
その反面、デメリットとしてサナギから羽化するまでの死亡率や変形、羽化失敗の確率が高くなることです。
実際に飼育した事がある方ならご存知かと思いますが、菌床交換の直後に暴れてかき回して、明らかに菌床を嫌がっている行動をとる事が多いです。
生き物を大切に育てる事が優先ですので、当店では死亡率が高い方法を推奨できません。
ですので羽化するまで終始菌糸ビンを用いる一般的な完全菌糸ビン飼育は推奨していません。
最後の最後で死んでしまったら物凄く悲しいことは私自身、沢山経験しておりますのでお客様にはお勧めしません。
そこで当店では死亡率を避ける為に幼虫が成長のピークを迎えた時点(終齢)で「マットボトル」に切り替えて、死亡率が低い飼育方法を採用しています。
折角、大きく育てた幼虫が最後の最後で死んでしまうと、お客様の悲しむ気持ちが伝わってきますので。。。
マットボトル飼育の特徴
クワガタの一般的なマットによる飼育の特徴は、成長に時間が掛かり、直ぐに大きくならないことです。
その反面、メリットとしてサナギから羽化するまでの死亡率や変形、羽化失敗の確率が低いことです。
但し、添加マット(人為的に小麦粉等を加えて発酵させたもの)は大きくなると言われてますが実際は腐敗のガスが発生したり、高熱になり死亡率が上がる事です。
ただ、「無添加マット飼育は大きくならない」という短所を消す為に、当店では数年前から菌糸ビン同等に幼虫が大きくなる無添加虫吉マットを開発してきました。
幼虫が大好きな菌糸が朽ちて発酵した状態を再現した物で、ストレスが掛からずに、食いが良いのが特徴です。
菌糸ビンを使わなくても、無添加虫吉マットボトルだけでも大きく育ちます。
やはり飼育するなら「大きなクワガタ」というお客様の絶対的なニーズは無視することは出来ません。
また、完全菌糸ビン飼育(羽化するまで何本でも菌糸ビンを与える飼育方法)の様に最後の最後で死亡率が上がると物凄く悲しい物が有り、「生き物を育てる事」の概念が無くなります。
安心安全、大きく育てたいというニーズを満たせる様に日々色々考えています。
幼虫飼育の私の率直な考えですが。。。
クワガタの人工飼育が確立されて以来、常に「大きさ」というものだけが追求されてきました。
「菌糸ビン飼育」という飼育方法が出現し、確かに今まででは考えられない様な大型個体が誕生する様になりました。
が、そこには従来の飼育方法では考えられない様な「死亡率の高さ」が生じる様になりました。
そこには、「大きさの価値」しか追求されずに「死んでもいいから大きく育てば良い」という物的な考えしか存在しません。
「命より大きさを重視した飼育方法」は一般には理解不能な状態となっています。
菌糸ビン飼育は死亡率が高くて当たり前と言う業界の風潮に私自信、理不尽さを感じて真っ向反対です。
5年くらい前に一切の菌糸ビン飼育を止めて、実際に死亡率が低いとされているマット飼育のみで数千匹以上に及ぶ数の飼育を行った事が有ります。
かたくなに3年間、マットボトルだけで地元にいる普通のクワガタの幼虫の飼育をし続けました。
色々な品質やコンセプトのマットで飼育をして死亡率と大きさのデータを地道に取りました。
添加マット(小麦粉等の有機物をオガに混ぜて強制的に発酵マットにした物)は死亡率が高い物が目立ちました。
また、劣化が早く、ダメージを受ける個体が多かったです。
もう一つ、夏場の暑さで高熱の発酵と臭いガスが発生してしまった場合に全滅してしまう恐れもあります。
真夏は発送中にどうしてもマットが高温になり易く、お客様の大切なクワガタを危険な目に遭わせてしまう事にもなってしまいます。
やはり自然の生き物に人為的な「添加剤」は無理が有るのかなと感じ始めました。
これでは菌糸ビンと同じだと思い、発想を転換して「大きくならないことの代名詞的な存在」の無添加発酵マット(有機物を人為的に加えず、自然まかせに発酵マットにした物)で飼育をしてみました。
確かに大きく育ちませんが、死亡率はゼロに近い物が有りました。
それも死亡率がゼロに近い飼育結果が残せました。
ただ成長が遅過ぎるという欠点がありました。
これではあんまりだ。ということで菌糸ビン飼育のメリットとマットボトル飼育のメリットを融合させてみようということで数年前から色々な試行をしております。
ポイントは以下の4つです。
1.なぜ菌糸ビンでは死亡率が増えるのか?
2.死亡し易い飼育方法なのになぜ菌糸ビンのほうが早く大きくなるのか?
3.自然界での幼虫の生態は?
4.無添加でより自然環境に近いキノコの成分を残したマットの再現は?
結果から言います。
確かに自然界のクワガタの幼虫もキノコの菌床が大好きでこれを食べて育っています。
これに実際に山に入ることで経験したクワガタの生態と自然界のキノコの役割りのバックグランド条件を付けてみると物凄く面白いことが分かりました。
自然界の幼虫は、ある時期(終齢の成熟期)を境に菌糸を拒絶し始めることが分かりました。
これを条件に加えて、考えていると面白いことが分かりました。
人間や他の生物同様に「小さい時は高い栄養素」の物を食べて早く大きくなろうとするメカニズムが有るということです。
人間でも子供の時の食生活を大人になっても続けていると成人病になります。クワガタの終齢も同じです。
ちょっと意味合いが違うかもしれませんが、この様にとらえて下さい。
実際にはBOD(生物化学的酸素要求量)、熱量、温度などと物凄く複雑になってニッチになるので止めておきます。
そこで考案したのが、「大きく成長するまで菌糸ビン→成長しきったらマットボトル」という必要以上に高い栄養素を摂取させない自然界の循環により近い飼育方法です。
実際飼育してみると死亡率が非常に低く、納得できる成虫が生まれてきました。
ただ、種類によっては「マットボトルへの切り替えのタイミング」が難しい物が多々有り、コツをつかむまで思ったより苦戦を強いられる種類もいるのも事実です。
が、大きさを問わず成虫になった時、確実に早く元気に活動を始める事がわかりました。
これで「満足のいく元気な状態で羽化させたい」、「死なせたくない」というお客様のニーズに近付けた気がします。
また「より大きく育てたい」というニーズにお応えする為に、白色不朽菌によって朽ちた木を再現した無添加の虫吉幼虫マットを開発しました。
交換のタイミングさえ分かればオオクワガタでも大丈夫です。
最後に。
この飼育実験や自然観察で菌糸ビン飼育の「死亡率の高さ」も科学的に解明できました。
また、長期間の菌糸ビン飼育でよく起こる「セミ化(サナギになれなくなった幼虫)」や「サナギになっても無事羽化できない」などのメカニズムも分かり始めました。
クワガタの羽化の失敗はサナギの時の要因より、その前の段階の幼虫の時期の栄養価の過剰摂取に問題が有ることも分かり始めました。
成虫になる為に短期間でエネルギーの補給なしで「幼虫→サナギ→成虫」と3回も形を変えていきます。
形を変えるには物凄い物理ネルギーが必要です。
幼虫の時点で弱らせてしまうとこの「エネルギー不足」でサナギ→成虫に成れません。
弱らせない飼育方法も念頭に置き、劣悪な環境(高い温度やエサのコンディション悪化)は絶対に避けて下さい。
これも「死亡率を下げる条件」の1つです。
当店のブログには、より安心・安全に大きく育てる為の飼育のコツを惜しみなく記載しております。ぜひ参考にしてみてください。
幼虫飼育の死亡率の低減に対する取り組み
クワガタの人工飼育が確立されて以来、常に「大きさ」というものだけが追求されてきました。
「菌糸ビン飼育」という飼育方法が出現し、確かに今まででは考えられない様な超大型個体が誕生する様になりました。
が、そこには従来の飼育方法では考えられない様な「死亡率の高さ」が生じる様になりました。
数年前までは昆虫には、「大きさの価値」しか追求されずに「死んでもいいから大きく育てば良い」という考えしか有りませんでした。
しかし、時代の流れと共に「クワガタ=ペット」というニーズが生じ始めました。
「命より大きさを重視した飼育方法」は一般には理解不能な状態となっています。
そんな時代の中でも未だに菌糸ビンや用品の性能が「大きさ」でしか評価されていません。
当店はこの考えには真っ向反対です。
当店では「死亡率が低い飼育方法」をした結果、元気に大きく育つ考えの元に飼育を行っています。
自然界でもクワガタの幼虫は確かにキノコの菌床(菌糸)が大好きです。
しかし、好きな物を食べて死亡率が上がるのはなぜ?という疑問と矛盾が生じます。
私と弟は実際に森を育てて、そこにシイタケのほだ木を置いたり、偶然に見付けた天然のヒラタケが生えた倒木をとおして、白色不朽菌/タケ菌とクワガタの関係を注意深く観察してきました。
幼虫の成長とキノコの寿命的な経時変化が意外なヒントを与えてくれました。
自然からもらったヒントを元に色々考えていると、長く菌糸ビンを食べさせ続けるとクワガタにも人間同様に成人病の状態に陥る事に気付きました。
自然からのヒントを元に、より「自然のまま」をコンセプトに「菌糸ビンで適切な期間飼育した後に安定期(成長しきった状態)で虫吉マットへ切り替えという飼育方法を行っています。
幼虫の死亡率を下げる試みをすると不思議と成虫になった時の「活きの良さ」が別物の様になり始めたことに気付きました。
常に試行錯誤の毎日ですが「元気な成虫を育てる」ということに結びつき嬉しく思っています。
ささやかですが、元気に羽化した成虫を通じて飼育の楽しみをお客様と共有できましたら嬉しいです。
幼虫が大きく育つ要素
よくお客様にクワガタの幼虫は、どうしたら大きく育つかというご質問を受ける事が有ります。
確かに近年は飼育用品(マットや菌床)の性能が向上して大型個体が出やすいのも事実です。
但し、大きく育てる為にはエサだけでなく温度という概念が大きく左右します。
クワガタのエサと大きさの関係の件ですが大雑把に下記の2つの要素(軸)が有るとお考えください。
・温度による加齢軸(成熟速度)
・食べたエサの状態による成長軸(成長速度)
因に血統は、上記の2つの次の要素に過ぎません。
加齢軸は、エサの種類や大きさに関係無く幼虫が一定の温度(合計積算温度:一日の平均気温を毎日足した累計/総和)を過ごすと脱皮や蛹化が始まる事を指しています。
自然下でも夏が来ると必ず雑木林で小さなカブトムシやノコギリクワガタを見掛けるのと同じ理由です。
また、幼虫採取の時期や種類、雌雄にもよりますが、夏を挟んで高温下での飼育だと2から3ヶ月で小型個体が羽化する事が有るのは温度の影響が非常に大きいからです。
成長軸はエサの種類や状態(栄養価や鮮度)で決定されます。
良いエサを沢山食べた方が同じ温度や環境下でも大きく育つ傾向が有ります。
自然界で先に孵化して新鮮なエサを沢山食べたカブトムシの幼虫の方が大きく育つ傾向が有るのと同じ原理です。
※後から産まれた幼虫は、先輩の糞や栄養価が落ちたエサを食べるので大きくなれません。
一般的に菌糸ビンで育つ種類のクワガタは、栄養価に劣るマットの方が成長が鈍化しやすいです。
上記の2つを合わせると、ある一定の温度に達して、成長が一定の段階まで達した状態(終齢の成熟期)で徐々に蛹化に近づく事になります。
まとめると確かに菌糸ビンは、栄養価が高く早く成長しますがボトルの中で生きたキノコの菌が呼吸しているので外気よりも3℃前後(高温時は5℃近く)も内部温度が高くなると言われています。
その為、同時に成熟も早くなりますので夏場の温度管理次第では小型化してしまう事も有ります。(30℃を超えると熱すぎて死亡率が上がります)
栄養価に劣るマット飼育だと菌糸ビン飼育よりも成長速度が遅く時間を掛けて大きくなります。
それから、ある一定の積算温度に達すると成熟して蛹化します。
※成長が遅いので温度が高いと成熟速度だけ早まり大型化しにくいです。マット飼育のコツもやはり温度を抑えて新鮮な栄養価が高い物を与え続けるのがポイントになります。